白昼夢

僕は人生の中で何度か不思議な体験をしたことがある。

研究という職業柄、あまりオカルトのたぐいは信じない方ではあり(ただそういう話を聞いたりするのは好き)、いい年こいてそういうの話して痛い人と思われるのもなぁ、と考えはするのだけど、これはどう考えても超常的だよな、といった経験が2,3ある。
最近ふと思い出し、今日書こうと思った話もそういったたぐいの話の一つ。まあただこれは10歳頃の話でもあるから、幼少期によくありがちな白昼夢であった可能性も否定はできない。

当時夏休みになると、祖父方の田舎である宮城県北部の某田舎に遊びに行くことがあった。2,3年に一度くらいのペースだったか。
そこはなかなかの田舎で、90年代半ばになろうかというのに、古い肥溜めがあったり、河童の出ると書いた看板があったりなど独特な雰囲気だった。当時大阪の中心に近いとこに住んでいたので、そういう雰囲気が新鮮でもあり、なにげにこの帰省イベントを楽しみにしていた。

しかし実際滞在していると大抵3日も経たずに飽きてくる。お昼ごはんを食べてしまうと夕ご飯まですることがない。友達ができた年もあったのだが、この年は遊ぶ相手が誰もおらず、午前中に祖父と田んぼの用水路でドジョウを取ると、その日のイベントは良くてスーパーに行くぐらい、というありさまだった。
ちょうど家の前が線路だったので、線路に敷かれている石を拾って、線路の向こう側にある柵の杭に当てるといった遊びをしたりしていた。昼過ぎはまだまだ暑いから、15〜16時を過ぎて少し日差しも弱くなった頃合いだったように思う。

その日も柵への石当てに興じていた。だんだん慣れてきて杭に当たる率が上がり夢中になっていたことを覚えてる。ふと気づくと、まだ15時過ぎそこらだったはずなのに様子がおかしいことに気づく。
真っ赤に空が染まっていたのだ。よく秋に近くなると、朱に染めたような真っ赤な夕焼けがあるが、ちょうどそれに近いか、もっと赤かったように思う。

あれ?もうそんな時間?そんなに遊んだかな?
と不思議に思った。あたりの景色は空に染められて同じように真っ赤で、木々や家は真っ黒なシルエットになっている。
そして、恐ろしく静かで人もいない。この家は駅から子供の足でも15分程度でそれなりに近く、人口も当時少なくはなかったから、見通しの良い線路沿いにはこの時間帯であれば一人二人は歩いたり自転車に乗っているのが見えた。
鳥のさえずりや、トラクターの音なんかも普段聞こえていたように思うが、耳が痛いくらい静かだった。

その時点で少し怖くなったのだが、奇妙に思って本当に誰もいないのか周りを見渡した。で、そこで見ちゃいけない気がするものを見てしまう。
直線距離で100メートルほど先くらい。背の高い人がほんやり立って、こっちをじっと見ている。当時は子供だったので、より背が高く見えたのかもしれないが、それにしてもかなり高い。180センチはあっただろう。
それも、何をするでもなく単に立っている。真っ赤な世界に黒いその人のシルエットだけが浮かび上がっている。真っ黒なのに、見られているのはなんとなくわかった。それを見て、凍りついた。本能でやばいとすぐにわかったからだ。

それが少し動いた気がしたので、僕はダッシュで家に駆け込み、祖父のもとへ駆け寄った。家の中に入るとふっと空気が変わったように感じた。
すごい勢いで僕が駆け込んだので、そこにいた大人達に驚かれ、なにかあったのか?と聞かれた。
怖すぎてうまく喋ることができず、祖父の膝に顔を埋める。いつしか眠っていたようで、寝室で目覚める。気づくと17時。テレビをつけるとNHKの教育番組の曲が流れたからよく覚えてる。縁側から外を見る。いつもと変わらない、黄色い西日が眩しい景色。さっきの真っ赤な夕やけよりまだまだ明るい。時間が戻った?

あれは何だったのか?
それ以来怖くて杭への石当てはやめた。

14歳頃にもう一度帰ったとき、当時は気づかなかったことに気づく。
まず、背の高いそれが立っていたちょうど近くに、小さな祠と鳥居があったこと。小さすぎて当時全く気づかなかったような。
近く(祠から森を挟んだ裏手)にも立派な神社があって、そっちはそれなりに大切にされていそうだったけど、こっちはかなり古くあまり維持もされていないように見えた。
また、その祠の近くには肥溜めがあった。普通、神様がいるところに肥溜めを作るか??
何となく大切にされていないような感じだった。ありがちな話なのだが、それを見たあたりに何かが祀られているのは本当。

ちなみにその時帰ったのが最後。もうちょうど25年前になるかぁ。

他にも、その家に夏になると、夜にテーブルに置いたライターがカタカタなるとか言うホラーや、神隠しにまつわる話があったりとか、まあいろんな曰くがありそうな土地ではあった。
もう今となってはその土地に縁もなくなったので行くこともないのでしょうが、よく帰っていたこの夏の時期になるとふと思い出す。
ちなみにこの地域はストリートビューが入っていないという…きれいな神社とか、ごく近いところまでだったら見れるのに、このエリアだけ不自然に行けないんですよね。道も広いのに…

もちろん、あの時すぐに祖父のひざの上で寝てしまったことを考えると、その時点で白昼夢のようなものをぼんやり見ていた可能性はある。ただ、あの赤い景色と黒い影の世界、30年近く経つ今でもはっきり覚えているのは何かしらあったのかなあ、と思わざるを得ないのです。

なんかこれ書いてる途中にも頭痛くなってきた(本当)。