朽ちていった命

最近刈羽原発放射能漏れだとか、
K間さんの「原爆投下しょうがない」発言だとか、
最近核にまつわる議論が盛んになっているので、
意識を高めるために、
「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)」
を読んだ。
 
四年ほど前、NHKスペシャルで見たときの衝撃がぬぐいきれず、
もう一度みたい!と思っていた折だけに、
まさか文庫本で読めるとは思ってもみませんでした。
想像していた以上の、テレビのドキュメントを凌駕した、
惨憺たる内容でした。
ここ数年で一番読み入った本だと思う。
 
人は放射能を浴びるとどうなるのか?
髪の毛が抜ける?血便が出る?
いいや、それ以上の、我々の想像を超えた壮絶な世界が待っている。
 
細胞が再生できない。
染色体を中性子線でズタズタにされ、
細胞分裂に必要な”設計図”が喪失するためである。
 
その時点で、生きているのに体は死ぬことと同値になる。
すなわち、細胞分裂が活発な部位から人の体は”朽ちて”ゆく。
神経や脳は長らく鋭敏に機能する。
朽ちてゆく痛みに苛まれる被爆者。
本来朽ちてゆく運命にある唯一の存在のはずの「死者」を、
生きながらにして演じねばならない。
 
体は腸、皮膚、眼と、徐々に徐々に朽ちてゆく。
腐った体躯から一日に10リットルの体液が噴出する。
止まらぬ輸血、皮膚移植、造血幹細胞移植…
移植に成功したはずの造血幹細胞さえ、
自分の体の出す二次放射線で、
新たに芽生えたドナーの正常染色体を破壊する。
 
殺してあげて。
僕は不謹慎ながら、心からそう思った。
 
まだ我々に記憶に新しい、東海村の臨海事故。
リスク管理がなされていない環境下で、
人が1年に浴びる放射線許容量の20000倍ともいわれる放射線が、
青いチェレンコフ光を放って一挙に大内さんの体を貫通した。
その瞬間、大内さんの体は朽ちてゆく運命に陥った。
 
そんな日々を戦い続けた大内さんの83日間を綴った記録。
目を覆いたくなる写真も多数あるが、
それを真摯に受け止め、読む価値は十分にあると思う。
原子力発電優勢が続くこんにち、
我々が秘めておくに無駄とならない記録の一つではないか。