琵琶湖 -402回記念更新に代えて-

mojataku2009-03-15

三回目の400回記念更新シリーズ。
全五話の予定です。
第一話:http://d.hatena.ne.jp/mojataku/20090313
第二話:http://d.hatena.ne.jp/mojataku/20090314
 
高校最後の夏、非常に大きな出来事があった。
自転車による琵琶湖一周である。
 
僕は安物のMTBを近くのホームセンターで購入し、
堪らなくなって部活の友人を誘って大阪→京都→大津と走り、
琵琶湖を一周してから往路を引き返す、という300 kmの道のりを2日間で走破した。
荷物を背負っていたことと、猛烈な暑さが死ぬほどつらかったが、
今思い返すと感動の連続だった。
 
大きかったのは、野宿という行為の楽しさを知ったことだった。
その時は琵琶湖の北にある塩津の峠でテントを張ったのだが、
「クマ出没注意」の看板があったり、夜は暴走族がひっきりなしに通るなど、散々な場所だった。
しかし、あの夜明け前のトワイライトで目覚めたとき、
「ああ、自分は生きてるな」と妙にリアルな実感となって体に染み込んでいくことを知った。
これは僕にとって非常に大きな収穫だった。
そうだ、旅というのはダイナミックな生の営みなんだ。
のほほんと生きているだけでは知ることのできない、生の実感を得る最大の機会なんだ。
僕は生きている!家にほど近い帰りの淀川の夕焼けの中で、そう叫んだ。
 
そして一番大きかったことは、京都と滋賀の県境にある緑深い峠でみた一条の清流だった。
名は全く知らない。
そもそも、あの細く短い流れに名があるのかどうか。
 
その清水を浴びて昼下がりの猛暑を緩和させた後、
脇にたたずむ苔むした歩行者用のトンネルの中に座り込んだ。
中は外の熱気が嘘のようにひんやりとしている。
峠を越える地元のじいさんのシルエットが一つ、トンネルの出口に浮かんでいた。
トンネルに座り込んで渇いた喉に水を注ぎ込んでいると、
なんだか懐かしい感覚に襲われるようになった。
一度経験したことがあるような、不思議な感覚。
…ああ、そうだ。あの夜だ。三年前の夏の、四万十川を知った、あの夜だ。
ちょうど、あの瞬間に似ている。
でも、もう僕は想像の中にはいない。自分で車輪を回している。
 
いつの間にか水玉の汗は引いていた。
トンネルから吹き込んでくる風がすごくすごく心地よかった。
出口に見える緑が、より深い色にみえて包み込んでくるようだった。
受験が終わって、大学に入ったら、四万十川に行こう。
 
自分の、車輪で。
 
つづく